袴田麻祐子「「パリ」のイメージ:神話の形成・ペルソナージュとしての都市」
発表者:袴田麻祐子
日時:2007年3月13日(火) 16:00〜18:00
会場:西早稲田キャンパス 8号館307号室
■要旨:
発表者はこれまで、昭和初期の日本におけるフランス・パリをテーマにしたレビューやシャンソンとその受容を分析することで、日本人にとっての西洋イメージの形成、その後の文化観への影響を考察してきた。当時の和製レビューやそれをめぐる言説には、同時代「パリのもの」としてはいってきたさまざまな情報が錯綜して含まれている。本場のミュージックホールやオペレッタ(多くはウィーンやイギリス起源の作品で、パリで上演され評価されたもの)・オペラが「元ネタ」として参照されていたのはもちろん、小説や雑誌のなかで語られたエピソード、写真やポスターから得られる視覚的印象などが日本人の演出家や観客のなかで消化され、現実の都市とは独立した「パリ」というイメージがひとりあるきしていたのだった。
こうした和製の「幻想のパリ」イメージの独自性を分析するのが発表者のこれまでの研究であった。だが、パリという都市からうまれたこうした幻想は、ハリウッドで制作された「パリ」映画や、フランスにおいて綴られたイメージと重なる部分も大きい。現代でもある意味国際的に共有される神話性を持っているともいえる。
日本語の言説だけを扱っていたこれまでの研究を反省し、昨年一年間フランスに留学し、当時のパリにおいて「パリ」が語られた資料に目を通す機会をつくった。1900年代初頭、ミュージックホールやモンマルトルが外国人観光客向けにどのように「名所」として発信されていたか。映画やレビュー、オペレッタのなかにパリ自身が、フランス視点で、またその他の諸外国視点でどのように描かれていき、他国へと伝播していったか。これまで扱ってきた「昭和初期の日本人」が参照した元のイメージ起源を探ることで、自らの考察に厚みを持たせていきたいと願っている。
■プロフィール:
大阪大学文学部卒業。同博士前期課程修了、博士後期課程単位取得退学。音楽学専攻。現在、早稲田大学演劇研究センターCOE特別研究生。ロータリー財団2005-2006年度国際親善奨学生。日本音楽学会、ポピュラー音楽学会、美学会等会員。主な論文:「創出される異文化イメージ白井鐵造のレビューに見られる『パリ』を例に」『音楽学』第49巻2号、2003年。「寶塚少女歌劇にみる『西洋』の意味とその変化」『フィロカリア』第22号、2005年。