日仏演劇協会 公式ブログ

日仏演劇協会公式ブログ le blog officiel de la Société Franco-Japonaise de Théâtre

Ovri「文楽版『月に憑かれたピエロ』の音楽監督、根本雄伯氏。」

http://ovninavi.com/takenori_nemoto_pierrot_lunaire/

 今晩から、アテネ劇場で始まる、文楽で演出された『Pierrot lunaire 月に憑かれたピエロ』公演。本紙3月15日号では、この演出を手がけ、人形を自ら操るジャン=フィリップ・デルソー氏について紹介した。

 もうひとり、このプロジェクトの全体像をとらえるに重要な存在となるのが、日本人音楽家、根本雄伯氏だ。ホルン奏者であり、作曲家、様々なコンクールで入賞し、多くの楽団の指揮をする異才。同時に現在「アンサンブル・ムジカ・ニゲラ」を率いる音楽監督として、今回、シェーンベルグが1912年に作曲した『月に憑かれたピエロ』を指揮する。

 実のところ、この舞台作品にとっては彼の存在が全ての核になっているようだ。多忙なリハーサルの合間、インタビューに応えてくださった。
 

  • ウィーン・日本、前衛・古典、この二元的エレメントの中で、それらをつなげているのは根本さんの存在ではないでしょうか?

根本「この舞台を構成するエレメントは、アルノルト・シェーンベルグ、ハンス・アイスラー、文楽、そして演出家・人形遣いのジャン=フィリップ・デルソー氏。舞台作品には、これら要素のバランスが大切であると思っています。音楽は人形たちの伴奏のためにあるのではなく、人形の呼吸に寄り添い、あるいは呼吸を作り出すものでもあります。また、文楽の場合、演奏者は人形遣いと同じ板の上にいて、観客からみえるのです。西洋でいうところのオーケストラピットという概念はありません。ですから今回は敢えて演奏者を舞台の中心に置き、客席から演奏者が見えるように演出しました。また舞台衣装に関してのアイデアなど意見を交わしております。」

  • 邦楽の存在を演奏者は意識していたでしょうか?

根本「わたくしどもアンサンブル・ムジカ・ニゲラは日本での演奏の機会もあり、例えば歌い手のマリーはまさに女義太夫です。もちろんわたくしから邦楽とは何か、と話すことはありますが、演奏者各々が肌で感じ取ったものもあると思います。」

  • この舞台はシェーンベルグの作品であることがポイントとなっているようですが。

根本「前衛的な作品を選ぶと、それだけで鳴り物入り的になってしまいますが、今回は、よりこの作品のアカデミックな部分を出すことができたと思います。プログラムには教育的活動の一環として、小中学生、または大学生たちと共にこの音楽に関して話す機会がありました。そこでわたくしが重点をおいたことは、クラッシックというものはモーツアルトやバッハという一般的な捉え方ではなく、シェーンベルグが紡いだ音を聞いて、体や脳といった身体器官がビクっとするような感覚、自分たちの身体が聴くことによって驚くという反応を感じることが、大切だと考えています。観念ではなく、今、目の前で鳴っている、まだ聴いたことのない音との出会い。こういった音や状況との出会いの場、機会が教育の中でつくられることに興味があります。」

  • 子ども、学生たちの反応はいかがでしたか?

根本「例えば舞台には字幕がありますが、当初わたしは字幕に関しては前向きではありませんでした。聴くこと、観ること、感じること、そこから子供達は何かを感じることができると思うからです。台詞はドイツ語ですが、その音節、音韻を聞き捉えることのほうが興味深いのではと思うのです。しかし、公演には大人も鑑賞します。その場合、物語の進行、場面をよく理解したいという欲求は当然生じます。やはり台詞の字幕は必要、ということで収まりました。」

  • 根本さん自身のこの作品に関わるにあたっての想いを教えていただけますか?

根本「最初にお話しした通り、舞台における音楽とは往々に伴奏としての立ち位置です。今回の場合、演奏者は完全なる伴奏者ではなく、人形の息遣いを創る担い手であり、あるいは人形の息を聴き取る役目でもあります。それは、全体の呼吸となります。そしてその呼吸とは「間」なのです。譜面上にある指示だけではなく、舞台全体の呼吸=間を整えることが、わたくしの役目と認識しています。」

  • この作品、ぜひ日本でも鑑賞したいものです。

根本「そうですね、その日が訪れることを願います。」

 東洋・西洋という対比、あるいは二元論的にとらえるのではなく、そのどちらも根源的な共通項があることにこの作品を通して気づくだろう。その根源にあるものとは、人間がなぜ音楽を奏でるのか、なぜ人形を操るのか、なぜ舞台芸術を観るのか、今昔変わらぬ普遍的芸術世界を感じることができる。観念にとらわれるのではなく、五感をフルにひらいて聴く、観ることで、一層味わうことのできる作品であるにちがいない。(麻)

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『Pierrot lunaire 月に憑かれたピエロ
Athénée Théâtre Louis-Jouvet 3/24〜31まで6公演。
演奏:Ensemble Musica Nigella
指揮:根本雄伯
演出:Jean-Philippe Desrousseaux
予約:01 53 05 19 19 www.athenee-theatre.com/